世界を敵にまわしても
「……あの曲、何で知ってるの」
ズッと鼻をすすると、先生は「ん?」と言ってピアノを見た。
「あぁ、さっき弾いたやつ? 読めたんだ、楽譜」
「ううん。晴に弾いてもらっ……」
パッと口を抑えたのは、晴の名前を出してしまったから。
まさかとは思いつつ疑うように先生の顔を見ると、微笑んでいた。
「そう……宮本ね」
笑顔が怖いけど、どうしよう……嬉しい。
「……ヤキモチ?」
「妬いてないよ」
「ぷっ……」
思わず笑ってしまって、先生が「コラ」なんて言うから今更実感してしまった。
笑顔が、零れる。
「あはは! 何で知ってたの? あの曲」
「……楽譜見ると、すぐ覚えるんだよ」
クスクスと笑うあたしに先生は不満そうにしながらも「特技」と付け加える。
そんな特技があったのか。音楽教師ならではって感じはするけど、どうなんだろう。
「あ……晴がね、失恋の曲みたいだって言ってたけど、先生が弾くとちょっと違ったかも」
「失恋?」
「うん」
でも本当に、先生が弾くと何か違った。うまく言えないけど、そう思う。
先生、ピアノ下手だからかな。