世界を敵にまわしても
第2章:慟哭モンタージュ

混合フラグメント



――恥ずかしい夢を見た。


先生に好きと言われて抱き締められる、現実であった事をそのまま再現したような夢。


……現実に……あったよね?



「みーつーきー」

「……椿。おはよう」


学校へ向かう途中、ダルそうな声に呼ばれて振り向くと一足先に衣替えした椿が居た。


ワイシャツの袖を捲って、深緑のニットベスト。透けそうな程白い肌には、いくつかのアクセサリーが付けられている。


「毎日完璧だね。いつも準備に何分掛けてるの?」

「1時間くらい。美月は30分も掛かんねぇべ」


えぇまぁそうですけど、何か。


そう目で訴えると椿はフッと笑って、空を仰いだ。


「はー、明日から6月か」

「何か嫌なことでもあるっけ?」

「梅雨じゃん」


なるほど。あたしも雨はあまり好きじゃないけど、別に憂鬱ではないかな。


校門を通り過ぎた所でポケットから振動が伝わり、携帯を取り出す。


『おはよう』


届いたメールを読んで校舎を見上げると、3階のベランダに差出人がいた。


ギュッと突然胸が締め付けられて、あたしは慌てて携帯を閉じて視線を落とす。


昇降口に向かう前にチラリと3階を見上げると、案の定先生は手すりに顔を突っ伏して笑っているようだった。


「~~っ」


行き場のない恥ずかしさと嬉しさと、若干の悔しさ。



――明日から6月。


あたしはまだ、夢うつつ気分。



< 192 / 551 >

この作品をシェア

pagetop