世界を敵にまわしても
「……は? 何、アンタ……何でこんな簡単に解けんの」
ノートとあたしを見比べる菊池さんは意味が分からないとでも言いたげだ。
「てか何いきなり解いてんの!? 嫌味!?」
「……菊池さんってひねくれてるよね」
「はぁー!? アンタに言われたくない!」
ひねくれてるつもりはないんだけど。
「それ、自分で書きなおした方がいいよ。あの先生目ざといから」
菊池さんが持つノートを指差して踵を返そうとすると、「ちょっと!」と呼び止められる。
まだ何か言い足りないのかと振り向くと、菊池さんは目を泳がせていた。
「……ありがと」
どこ見て言ってるんだ。
そう突っ込む前に、フッと笑いが零れてしまう。
「それしか取り柄ないから。……あと、この前のお詫び?」
わずかに目を見開く菊池さんに微笑んで、自分の席に戻る。と、椿が口の端を上げて振り向いていた。
「何、やさしーじゃん」
からかう気満々だなと思いながら椅子に座って、椿に微笑む。
「椿のも見てあげようか?」
「マジで」
「嘘だけど」
「テメー! ウチの期待を返せ!」
怒る椿に声を出して笑う、もう当たり前のようなあたしの朝。
先生。あたしは今まで生きてきた中で、今が1番幸せかもしれない。