世界を敵にまわしても
――――…

「……え? もう1回言って」


放課後の音楽準備室。先程まであたしの手にあったプリントが無くなっているけど、それはどうでもいい。


「うん、その前にプリント落ちたよ? 雪崩れのように」


クスクスと笑う先生は、あたしが動揺してプリントを落とした事に気付いてるんだろう。


「凄い勢いで、くくっ……落ちたね」


合間に笑いを挟まないでほしい。


椅子から腰を上げてしゃがみ込む。床に落ちたプリントを拾い集めていると、笑っていた先生が隣に現れた。


「明日、デートしようか」


肩が触れる距離で微笑まれて、あたしの心臓はバクッと一度強く鳴る。


その後鼓動は徐々に大きく早くなって、運動した後みたいに体が熱を帯びた。


「……聞こえた?」

「聞、こえた……けど」

「けど?」

近い!!


勢いよく立ち上がって、先生の視界から逃げる。


お、落ち着こう……。


プリントを机の上に置いて俯きがちに髪を耳に掛けると、髪で隠れていた視界から先生が顔を覗かせた。


「ぎゃあ!」

「……」

「……な、何か?」


目を丸くした先生に平然を装ってみるけど、意味がないことぐらい分かってる。


それでもごまかしたい乙女心。


いや、あたしのはただの負けず嫌い。

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