世界を敵にまわしても


「もしもし!?」

『……ビックリしたぁ。早いね、出るの』

「待ってたんだよ!」

『え? それは照れるね』


照れてる場合じゃないんですけど!


イラッとしたのはさすがに電話越しでは伝わらないらしく、先生は不思議そうな声で尋ねてくる。


『どうしたの? 今家に帰ってきたんだけど、何か急用だった?』

「……訊きたい事があって」

『うん? 何?』


何で今更緊張しなくちゃならないんだ。


あたしは携帯を持つ手に力を込めて、浅く息を吸い込む。


「先生、左手に何かある?」


サー……っという機械音しか聞こえないのは、お互いが無言だという証拠。


あたしはいつの間にかベッドの上で正座して、その上で拳を握っていた。



『……驚いた。いつ気付いたの?』


握った拳の中が、ジワリと汗ばむ。


……やっぱり、椿が思った事は本当なんだ。


「っ何かあったの? どこか悪いの? 病気とか、そういうの?」

『ちょ、ちょと待って落ち着いて! そういうんじゃないから』


落ち付けない。先生がもし病気だったら……そんなの嫌だ。


泣きそうにさえなってるあたしに先生は一呼吸置いて、話してくれた。


眉を下げて、困ったように笑ってる姿が目に浮かぶような声で。

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