世界を敵にまわしても
『……今から逢おうか』
控えめな先生の声に、目を見張る。
『なんて、ダメか。美月明日も試験――…』
「逢う!」
先生の言葉を遮って、あたしは一際大きな声を出した。
『え、いや、でも……』
「いい、平気。もう勉強終わって、電話待ってただけだから」
嘘は言ってない。試験勉強は完璧だし、電話を待つだけの状態だったんだから。
そんな事より、早く逢いたいという気持ちの方が何倍も、何十倍も大きかった。
『……じゃあ、今から行くけど家の中で待ってて。もう遅いし』
「分かった」
『30分くらい掛かると思う』
「うん。気を付けてね」
『ん。じゃ、また後で』
電話を切って、あたしはボスッとベッドに横たわる。
今から恋人同士が逢うような声色ではなかった。
あたしは不安で、先生は少し……何となくだけど、寂しそうな声。それともあたしが我儘を言ったから、困ったのかもしれない。
ぼんやり部屋の中で過ごし、30分経った頃電話が鳴った。
家の近くまで来たと言う先生に急いで階段を駆け下り、一応母にコンビニへ行ってくると告げて家を出た。
門を出てすぐ、数メートル離れた曲がり角に先生の車が見える。
パッシングされて、あたしはそこまで駆け寄った。
「先生……」
僅かに息を切らしながらたどり着くと、先生は車の外に出ていた。