世界を敵にまわしても
「あーっ。美月に椿! ちょい待ち!」
教室を出ようとすると、晴が駆け寄ってくる。見ると、晴の手には白い封筒がひとつ。
「あのさ、これ。ペアチケット要らない? タダ!」
「はん? 何の」
「クラシックコンサート。親に貰ったんだけど、俺行けないからさー」
……クラシックコンサート?
「ウチがクラシック聴くかよ」
「だよなー! 用事なかったら俺が行っても良かったんだけど」
「……晴の両親って何してる人なの?」
単純にそう思って聞くと、晴は封筒を揺らしながらサラリと言ってのけた。
「どっちもオーケストラの団員」
「え、そうなんだ」
楽器全般出来るという晴の両親も、音楽関係の仕事っぽいなとは思ってたけど、まさかプロの方だとは。
「美月は? 興味ある?」
先程から晴が揺らしてる封筒に、興味がないわけじゃない。というより、先生が好きそうだから。
「……貰えるなら、欲しいかな」
「おー! マジで! じゃあやるっ」
困っていたのか、晴はホッとしたような笑顔を見せてあたしに封筒を差し出す。
「ほんとにいいの? お金とか」
受け取りながら尋ねると、晴は「全然いーよ」と白い歯を見せた。