世界を敵にまわしても
――…
「ただいま……」
学校から電車に30分ほど揺られて、駅から徒歩で10分。閑静な住宅街の一角にあたしの家がある。
玄関を開けてローファーを脱いでいると、ペタペタと小さな足音。顔を上げると小6の妹、那月があたしに駆け寄ってきていた。
「みつきおねーちゃん! おかえりなさいっ」
「ただいま、那月」
「今日、おそかったね? また先にごはん食べちゃったよー」
「……そう。ちゃんと残さないで食べた?」
那月の頭を撫でてから廊下を歩くと、那月はあたしのブレザーの端をつかんで付いて来る。
「あのね……ピーマンは食べてもらったの。お母さんには内緒ねっ」
口の前に人差しを出す那月に、あたしは微笑んだ。
「分かった。内緒ね」
可愛い妹。性格も仕草も喋り方もあたしとは真逆で、常に愛くるしい。
親は同じなのに、どうしてこんなにも那月とあたしは違うんだろう。
なんて、何度考えても答えはひとつだ。
リビングへ入ると、キッチンに立っていた母親があたしに気付いた。だけど掛けられる言葉はいつも、「おかえり」ではない。
「早くご飯食べなさい」
……あたしはひとりで準備するし、片付けもする。母親の手をわずらわせないんだから、急ぐものでもないのに。
ただあたしを1秒でも早く、部屋に追いやりたいだけなんだ。