世界を敵にまわしても
母も母だ。
兄を見習えと言われるのは分かるけど、高2のあたしが小6の妹を見習うってどういう意味よ。
あたしの知能は、小6以下だとでも言いたいのか。
……笑える。
「おにーちゃーん! 持ってき……おねーちゃん?」
あたしは鞄とブレザーを持って、両手いっぱいに教材を抱えた那月の声を無視して階段を駆け上がった。
2階の最奥。自分の部屋に入ると、あたしは鞄を振りあげてベッドに叩きつける。
ボスッという音を聞き、そんな柔和な音じゃなく、もっと硬質な音が出てほしいと思った。
心の奥でくすぶる感情を膨らませるだけじゃなくて、破裂させてしまうような、そんな音。
……息苦しい。
どこにも行かない感情が、吐き出せない感情が、喉を詰まらせる。
母はヒステリックな教育ママという奴で。父は仕事人間で家には寄り付かない。兄の皐月も妹の那月も、あたしと違って出来がいい。
兄妹の中でひとり出来が悪くて、結果が全てのこの家で、あたしは結果を残せなかった。
この家にあたしの居場所なんて、どこにもない。
小学、中学、高校。どの受験も落ちて、母が望む環境へ行けなかったから。
その度母はヒステリーを起こして、普段温和な兄が苛立った。
それからは嫌われて……今はもう無関心だ。