世界を敵にまわしても
「もういい……」
疲れた。
極度の緊張と、その前のドキドキのせいで。
先生に背を向けると、あろうことかまた後ろから抱き付かれた。
「いい加減怒るよ先生……」
「だって、まだ聞いてないよ」
「は?」
「今日来た時、ソワソワしてたでしょ」
「……」
先生ってほんとに分からない。一体何個、眼を持ってるんだろうと思ってしまう。
あたしは溜め息を吐いて、先生に抱き締められたまま床に置かれた鞄を引き寄せた。
まさか机の下でデートに誘う事になるなんて。
「これ。先生興味あるかなと思って」
鞄から白い封筒を出して、振り向かずに自分の顔の横に掲げて見せた。
先生はそれを受け取ると、あたしの腰に手を回したまま封筒からチケットを取り出す。
そういえば、ちゃんと見てなかったな。
あたしの腹部で取り出されたチケットに視線を落とすと、晴が言ってた通りクラシックコンサートのチケットだ。
「……どうしたの、コレ」
「晴に貰った。両親がオーケストラの団員なんだって」
「ふぅん」
……あれ? もしかして興味ない?
先生はチケットを見てるようだけど、あたしは全く別の事を考えていた。
ていうか、先生なら喜ぶかと思ったんだけど。。まくピアノ弾けないんだから、逆にこういうのって観たくないんじゃ……。
何でその可能性を考えなかったんだあたし!