世界を敵にまわしても


「もういい……」


疲れた。


極度の緊張と、その前のドキドキのせいで。


先生に背を向けると、あろうことかまた後ろから抱き付かれた。


「いい加減怒るよ先生……」

「だって、まだ聞いてないよ」

「は?」

「今日来た時、ソワソワしてたでしょ」

「……」


先生ってほんとに分からない。一体何個、眼を持ってるんだろうと思ってしまう。


あたしは溜め息を吐いて、先生に抱き締められたまま床に置かれた鞄を引き寄せた。


まさか机の下でデートに誘う事になるなんて。


「これ。先生興味あるかなと思って」


鞄から白い封筒を出して、振り向かずに自分の顔の横に掲げて見せた。


先生はそれを受け取ると、あたしの腰に手を回したまま封筒からチケットを取り出す。


そういえば、ちゃんと見てなかったな。


あたしの腹部で取り出されたチケットに視線を落とすと、晴が言ってた通りクラシックコンサートのチケットだ。


「……どうしたの、コレ」

「晴に貰った。両親がオーケストラの団員なんだって」

「ふぅん」


……あれ? もしかして興味ない?


先生はチケットを見てるようだけど、あたしは全く別の事を考えていた。


ていうか、先生なら喜ぶかと思ったんだけど。。まくピアノ弾けないんだから、逆にこういうのって観たくないんじゃ……。



何でその可能性を考えなかったんだあたし!
< 267 / 551 >

この作品をシェア

pagetop