世界を敵にまわしても
「ゴメン。興味ないよね」
行きたくないよな、多分。
そう思ってチケットを取ろうとすると、先生はサッとあたしの手から逃げた。
「あるよ?」
「え……でも」
「凄いな宮本の両親。団員なのは知ってたけど、このチケット中々手に入んないよ」
そんなに凄い人なのか、晴の両親。ていうより、このコンサートも凄いものなの?
「今月末か……うん、大丈夫」
「行くの?」
「もちろん。美月の誘いじゃ、断れないでしょ?」
「……からかわなくていい」
わずかに振り向いて睨むと、可笑しそうに笑う先生。
「ありがとう。嬉しいよ」
「ならいいけど」
パッと視線を前に戻すと、先生はクスクス笑いながらチケットを封筒に戻す。
首筋に掛かる先生の髪が、くすぐったい。
「やー。嬉しいな。デートの誘いって」
おちょくってるよね、完全に。
「嬉しい」
「分かったから!」
ギュッと抱き締めて来る先生から、ひしひしと伝わるオーラ。
まるでドピンクのハートを投げ付けられてるような、そんな感じがする。
あたしを抱き締める腕や、伝わる体温も紡がれる言葉も、体中全部で好きと言われてるみたい。
耐え切れず「帰らなきゃ」と言って先生の腕から逃げたあと、あたしはマグカップをいそいそと片付けた。