世界を敵にまわしても


「俺プログラム貰ってくるけど一緒に行く?」

「あ……お手洗い行っとく」

「だね。休憩の時混むだろうから、行っといた方が得策」


「場所分かる?」と聞いてくる先生に大丈夫と頷いて、一旦別れる事にした。


先生はチケットの半券とプログラムの交換をしに行って、あたしは既に混雑してるお手洗いに向かう。


……それにしても色んな人が居るな。


あたしの目の前に立つ女性は子供連れで、4歳くらいだろうか、小さい女の子が笑顔を見せている。


さっきは優しげな老夫婦にぶつかりそうになったし……。


老若男女、このコンサートを聴きに来てるイメージ。




お手洗いから出ると、あたしに分かるような位置に立っていてくれたのか、すぐに先生の姿を見つけた。


「うつむき過ぎじゃない?」


近付いてそう声を掛けると、先生は俯いたまま見上げるようにあたしを瞳に映す。


「何か、凄い視線感じる」


……それはその美貌のせいだと思う。調子に乗りそうだから言わないけど。


「ん。貰ってきたよ」

「ありがと」


プログラムを受け取ると、先生は「行こうか」と言って歩きだす。あたしはその少し後ろを歩いて、広い背中をジッと眺めた。


……やっぱり姿勢がいい。ピアノしてる人って皆そうなのかな。


先生は身長が高いから、余計に目立つ。
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