世界を敵にまわしても


「零さんに似てるから、あたしのこと好きになったんじゃないの?」

「……」


ねぇ、何で。


何で今、何でこの質問で黙ってられるの。



先生は挙句の果てに、あたしと合わせていた視線を逸らした。


苦い顔をして、眉間にシワを寄せて、キツく唇を結んで。


――そんなの全部、あたしがしたい表情だ。


合わない視線が、返ってこない言葉が、目頭を熱くする。


「ねぇ……」


先生。


……先生。



「あたしは、身代わりなんかじゃないでしょ?」


否定してよ。そんなんじゃないって、怒ってよ。


先生は、1年生の時からあたしを見てたんでしょ?気にしてたんでしょ?それすらも、零さんと顔が似てるからだって言うの?


「ねぇ……っ」


何か言って。
お願いだから、黙らないで。


「……」


先生はやっぱり黙ったまま、あたしではない何かを見ていた。


……笑える。笑うしかない。そう思うのに、浮かんだのは笑みじゃなくて涙だった。


だけどここで涙なんか流したくなくて、そんなのは悔しくて、グッと奥歯を噛みしめる。


黙ってるということは、肯定してるようなものなのに。何も言われないくらいなら、下手な嘘をつかれた方がマシだ。


そしたら怒って、怒って、怒鳴り散らして。



許してしまうに決まってるのに。

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