世界を敵にまわしても
「美月ってたまに1人でフラッとどっか行くよね~。何でだろぉ」
教室に入る前に耳に入ったのはあたしの名前だった。
反射的に体を後ろに引いて、壁に背中を預ける。
「さぁ……でもちょっと冷めてるとこあるよね。メール返ってこないし」
「気付いてないんじゃない? ほら、前にサイレントにしてて気付かなかったって言ってたじゃん!」
「だっけ? てか美月って携帯チェックしなそう」
「「確かに!」」
笑いが零れたとこで、あたしはそれ以上会話が進む前に何食わぬ顔をして教室に入った。
“美月”の話題を出していたのは、ミキとサトミとユイの3人組。あたしが入れば、何かと便利な4人グループの出来あがりだ。
「美月ぃ~! 今どこ行ったって話してたんだよ」
「ゴメン、図書室行ってた」
あたしは背表紙をミキに見せて直ぐ胸に抱くと、何の本か突っ込まれないように次の言葉を投げ掛ける。
「次って音楽室だっけ?」
「あ、そうそう! 早く行こっ!」
「教科書持ってくる」
了解したように頷くミキに笑みを作り、自分の机から教科書と筆箱を取り出す。
焦った……。
先程の話題だけでは悪口と言えないけど、それがいつ本当に悪口になるか分からない。
あたしはそれが、怖いんだ。