世界を敵にまわしても
「もういい……」
ポロッと涙が落ちた瞬間、あたしはそう言って先生に背を向けた。
踏み出した一歩は大きくて、二歩目は普通で、三歩目は小さくて。
どんどん小さくなる歩幅は、後ろ髪を引かれるような、未練ったらしい想いのせいだ。
そんなことしたって、先生があたしは引き止める事はなかったんだけど。
……もういいなんて、何も良くない。
このままあやふやにして、モメることもなくて、あたし1人怒って終わるの?
それとも最初から全部、嘘だったんだろうか。
そんなのは嫌だ。
全部嘘だなんて思わないし、思いたくもない。
このまま終わるなんて絶対に嫌なのに。
ちっぽけなプライドが、こんな時まであたしを素直にさせない。
――ポツッと頬に冷たい感触があり、次の瞬間には雨が静かな音を立てて降り始めた。
それは徐々に打ち付けるような雨に変わって、人々が立ち止まるあたしの横を通り過ぎていく。
見上げた空には分厚い雲が広がって、1時間ほど前まで姿を見せていた月は、どこにも見当たらなかった。