世界を敵にまわしても
あたしは空から地面に視線を落として、打ち付ける雨も気にせず歩き出す。
このまま雨で体温が奪われて、体の芯まで冷えてしまえばいい。
そしたら、傷付けられて熱を持った胸の奥の痛みも消えるはず。
……なんて、悲劇のヒロインぶってみても何も変わらないんだっけ。
だって、他に考えることがない。
――『俺と恋、してくれますか』
今思い出してもクサい。だけど嬉しくて、信じられないくらい幸せだった。
嘘の様だと思ったけど、笑顔も込み上げる愛しさも確かに本物だったのに。
身代わりだったなんて、それこそ嘘であってほしい。
「……っ……」
嗚咽を漏らすと、口の中に水滴が入った。もう涙か雨か分からないくらい全身びしょ濡れで、きっと顔もぐしゃぐしゃだ。
――びしょ濡れで家に帰ると、母親は怒りながらあたしをお風呂に促した。
ぼんやりして俯きがちだったあたしを心配してくれたのかもと気付いたのは、熱すぎた湯船に浸かった時。
それが余計に涙を誘って、あたしは風呂場で声を押し殺して泣いた。