世界を敵にまわしても
―――
―――――…


「……もういいの?」


昼前にリビングへ降りたあたしに、母が読んでいた本を閉じた。


「うん……まだダルいけど、行くよ。遅刻になっちゃうけど」

「そう」


雨に打たれて髪も乾かさずに寝たあたしは、見事に風邪をひいてしまった。


土日は高熱にうなされて、昨日は微熱で学校を休んだ。


まだ完治していないけど、今日も休んだら明日はもっと学校に行きたくなくなる。


「美月。私今日PTAで遅くなるから、那月のこと見ててちょうだい」


食欲が無くてヨーグルトを食べていたあたしの前に、母が切った林檎を置きながら言った。


「うん、分かった」


話す様になっても、必要最低限というか。無駄話がないのは相変わらずだ。


母はあたしが了承すると再びソファーに戻って読書にふける。


カバーがついてるから何の本かは知らないけど、きっと教育ママらしい内容だと思う。


静寂なリビングには母が本の頁をめくる音と、時計の音とあたしが林檎をかじる音だけが響く。



母が切った林檎は目に見える蜜があったのに、少し酸っぱかった。

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