世界を敵にまわしても
「あー! 美月っ!」
教室へ入る前に、考え込んで居たあたしの名前を明るい声が呼ぶ。振り向くと、案の定晴が笑顔で手を上げていた。
「何なに、復活? おはよー」
「おはよう」
目の前まで来た晴に笑い返すと、晴はズボンのポケットに手を突っ込んでくしゃっとした笑顔を見せる。
「奏ちゃんも風邪引いててさー、今日復活したって知ってる?」
「ウチがもう言った」
「すっげー偶然な! ってもウチのクラスでもう1人風邪引いた奴居るけどなー」
「そうなんだ」
偶然という言葉に些か不安になりながらそう返すと、晴は椿に視線を移した。
「ちょっと美月借りていー?」
「はん? ……何で」
「椿にもあとで言うから! ちょっと借りんねー!」
「え!? ちょ、は……ゴメン椿っ、あとでね!」
晴に手首を掴まれて、あたしは慌てて足を動かして椿に振り返る。
な、中指立てられてるよ晴。いや、あたしに向かってなの?
晴に引かれながら後ろを見るあたしに、椿は微笑んで教室に入っていった。
……何か、学校来て良かったかも。
部屋に閉じこもってるよりずっと、気分が楽だ。