世界を敵にまわしても

不完全相愛



――帰りのホームルームに現れた先生はマスクをして、度々咳き込んでいた。


教室に入ってきた時に目が合った気がするけど、気のせいかもしれない。


何てことない、3日ぶりのホームルーム。


暦では7月に入ったけれど、先月と何も変わらない。3日前と同じ放課後の始まり。


クラスメイトが席を立つ音が教室に響けば、あたしと先生の時間が始まる合図だ。



「椿、今日一緒に帰れない」


先生が教室を出たと同時に席を立つと、椿が振り返る。


「そ。ガンバレ」

「……分かって言ってる?」

「いや? 何となく」


そう言いながら口の端を上げる椿には、あたしは一生勝てそうにないなと思いながら笑い返した。


「じゃあね」

「おー」


鞄を肩に掛けて、あたしは教室を出る。


廊下に出ると、これから部活に行こうとする人や立ち話をする同級生がたくさん居た。


その表情は様々だけど、きっと何の偽りもない表情なんだろうなと思う。


ほんの3ヵ月程前、あたしはどんな表情をしてたっけ。


作り笑顔を浮かべながらも、きっとつまらなそうな表情をしてたんだろうけど。



そんなに時間は経ってないはずなのに、うまく思い出せない。

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