世界を敵にまわしても


「それ、宮本?」


記事をポケットにしまうと、先生がポツリと呟く。


「うん。今日、晴が持ってきた」

「そう……やっぱりね」


まさかバレるとは思わなかったというより、薄々こうなるんじゃないかって分かってたような口ぶりだった。


あたしが黙ると、先生はコン…と小さな音を立ててピアノの鍵盤蓋を閉める。


その手をスッと下ろした先生が見てるのは、蓋がされた鍵盤ではなく、そこに映る自分だ。


「……零とは、中学に入る前からライバルだったんだ」


鍵盤蓋に反射した自分を見つめる先生は、ゆっくりとした口調で過去を振り返り始める。


あたしがそれを求めてるって分かって話してくれるのかは、知らないけれど。


「俺も零も芸大ピアノ科卒の先生に師事してて…毎日、それこそ飽きるくらいレッスンを受けて。コンクールで何度も争ったし、勝ちもしたけど負けもした。それがお互い悔しくて、寝る間も惜しんでピアノを弾いてたんだ」


……じゃあ先生と零さんは、唯一無二の認め合ったライバルって事か。


「友達と遊ぶことよりも恋愛するよりも、ピアノを弾いて、零と争ってる方が何倍も楽しかったのが、中高時代。同じ中学と高校に通ってたんだ」


今まで生きてきて1番長く付き合った零さんは、中学から一緒だったと何であの時言ってくれなかったんだろう。
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