世界を敵にまわしても
「何か用ですか」
「わ、ドライ」
無味乾燥だって言いたいのか。
何故か追い掛けてきた朝霧先生を見上げると、本当に何の用なのか校庭を見ている。
「あ、待って待って」
無視して歩き続けると、いとも簡単に隣に並ばれた。腹立たしくて早歩きしても、完全に無意味だ。
「さっきはゴメン」
気付けば校舎に入っていて、階段を上るあたしの隣から声が降り注ぐ。
「……いいですよ別に」
良くないけど、これ以上関わりたくないから怒るのをやめた。
「でも肘テツはないと思う」
「っ! ……すいませんでし、た」
言い返そうとしてやめたあたしに、朝霧先生は目を丸くする。絶対また吹き出すのかと思ったのに、今回は違った。
「俺に用あったでしょ」
……はい?
微笑みを向けてくる朝霧先生に、あたしは意味が分からず固まる。
何だ、この自意識過剰な……。
「やっぱりワザとだったんですか……!」
関わりたくなさ過ぎて忘れていた。そうだ。あたし今日の放課後、楽譜を取り返しに音楽室へ行くつもりだったんだ。
「人聞き悪いな。仕舞い忘れてたんだよ」
「返してください」
「うん。放課後、取りにおいで」
嘘くさく感じる笑顔が、意地悪い微笑みに変わった。
朝霧先生は尻目遣いにぼう然とするあたしを見て、流れるように階段を上っていく。その後ろ姿が見えなくなるまで、あたしが思った事はひとつ。
きっと朝霧先生は、あたしより一枚も二枚も上手だ。