世界を敵にまわしても
――放課後の独特な空気は、嫌いじゃない。
昼間よりグッと生徒が減って、部活に打ち込む生徒や居残ってお喋りする生徒の微かな声や音しか聴こえないから。
集団行動が苦手なのと同じように、あたしは人が密集してる場所も苦手らしい。
放課後の方が、いくぶん気楽だ。
家庭科室やコンピューター室もあるB棟の3階、その最奥に音楽室がある。
静かな廊下の丁度真ん中まで来ると、閉じられたドアが別空間に繋がっている気がした。
別に何てことない、他の教室と同じドアなんだけど。
「……」
立ち止まっていても仕方ない。そう思って一歩踏み出した時、不意に音楽室から音が流れる。
――ピアノ……。
「!」
まさかあの楽譜の曲かと思ってドアまで駆けたのに、ボローンと何とも言えない間抜けな音で演奏が止まった。
「ヘタクソ」
ドアを開けてすぐ、ピアノの前に腰掛けていた朝霧先生が目に入る。
あたしの姿を確認した朝霧先生は、「ヘタクソ」に反応したのかしてないのか、分からないけれど。ただ柔らかく笑っただけだった。
まるで声を失ったみたいに、口元と目元だけで、静かに微笑んでいた。