世界を敵にまわしても


「……うん」


あたしを見つめる2つの瞳がやんわりと細められて、鼻の奥がツンとする。


「俺も同じだよ」


――本当に?


出かけた言葉は無理矢理呑み込んで、頭の中から消し去った。


今日だけは、今だけは先生の悲しそうな、寂しそうな笑顔は見たくなくて。


あたしも答えを急かしたり、怒りたくも泣きたくもなくて。ただ、そばに居たかった。


「……先生」

「ん?」

「あたし、17年間生きてきた中で、先生と逢ってからが1番幸せ」


あぁ、……あたしに好き好きと言っていた時、先生も多分こんな気持ちだったんだろうな。


言うつもりのなかった想いを口にしてしまったのは、きっと先生を少しでも繋ぎ止めておきたかったから。


「嬉しい」


そう微笑む先生は本当に嬉しそうで、あたしは少なからず安心する。


想いが伝わって、それを嬉しく思ってくれるなら。先生も、同じように思ってくれるなら。何度だって伝えたくなる。


「俺もだよ。美月と居る今が、幸せに思う」

「……」


でもやっぱり、伝えても伝えても伝わらない気がした。


先生は嬉しそうにしてるはずなのに、あたしの眼にはその裏にある寂しさも一緒に映っているから。


まるで今だけみたいに。いつか、終わってしまうんだと思われてるみたいで。


好きだという想いが募るたび、伝えた分だけ、ジワリと不安が滲む。
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