世界を敵にまわしても
「……先生、ちゃんと寝てる?」
「俺? 寝てるよ、大丈夫」
「そう? あんまり顔色良くないよ」
風に揺れる髪を耳に掛けながら言うと、先生はフッと笑みを零す。
「まぁここ1週間、悩んでたからかな」
「……ふぅん」
「あれ? そうくる?」
もっと悩めばいい。
なんて、言ったらダメなのかな。……ダメか、多分。
……嫌だな。あたしは今までずっと、何の遠慮も無しに言いたい事をズバズバ言ってたはずなのに。
今のあたしは言葉を選んでる。
何か、先生を追い詰めそうで、傷付けそうで怖い。
そしたら先生があたしから離れていくんじゃないかって考えてしまう。
「……顔に出てる?」
「ははっ! 何か考えてるなってことぐらいは分かるよ。美月は顔に出やすいから」
あたしを見ていた先生には、きっと何を考えていたのかも分かってる。だって笑った後に、申し訳なさそうに眉を下げたから。
「別に、大したことは考えてないよ」
「そうなの? それにしては眉間にシワが寄ってたよ?」
「……うるさい」
あたしは自分の眉間を撫で付けると、先生はドアに寄り掛かったままクスクスと笑う。両腕を組んで、可笑しそうに。