世界を敵にまわしても
「別に何かあったってわけじゃないんだけどー……」
先程から1人で話してる子が、あたしを視界に捉えて口を噤んだ。先生もそれに気付いてあたしに振り返ったけど、再びその子に顔を向ける。
「授業の質問かと思った」
「違う違う! 先生に会いに来ただけ。ねっ!」
「あ、うんっ」
……あぁ、用があるのは、大人しそうな子か。
明るそうな子の少し後ろで、隠れるようにして先生を見てる。その視線はすぐに、あたしに向けられたけど。
「あたし、いない方がいいよね?」
ベランダから音楽室に足を踏み入れて、彼女たちに向かってそう訊いた。
答えなんか聞かなくたって、分かってはいたのに。
「じゃあ、あたし帰ります」
「あ、うん。ごめんね」
「いえ」
あたしが何でここに居たのかは、先生が適当に言っておいてくれるだろうと思ったから、余計な事は言わずに先生の横を通り過ぎる。
すれ違いざま、彼女達の視線を感じたけれど見る事はないまま音楽室を出た。
胸が、チクチクと痛む。
その奥でジワジワと嫉妬心が滲むから、あたしは思い切り眉を寄せた。
……告白ではないよね、きっと。
でも、あの明るい子がその内けしかけそうだと思うと、また不安と嫉妬が胸の奥をいっぱいにする。
――あぁ、嫌だ。
あたしはいつから、こんなに臆病になったんだろう。