世界を敵にまわしても
「わざわざ取りに来るなんて、コレ、高城のもの?」
椅子に座ったままの朝霧先生は、例の楽譜を掲げて笑う。
……何だ、喋れたのか。
いや、喋れて当たり前だけど、さっきは本当に喋れなくなったのかと思った。
「違いますけど……」
止まっていた足を動かすと、朝霧先生も鍵盤に向けていた体を横に向ける。
「本に挟まってたのを見つけたから、あたしのです」
「ははっ! そうなんだ」
戻しとかなきゃダメとは言われず、楽譜はいとも簡単にあたしの手に戻ってきた。
「……さっき弾いてたのはコレですか?」
「ん? 違うよ、授業でやってる曲」
「弾いてください」
戻ってきた楽譜を差し出すと、朝霧先生は目を丸くして笑いだす。
「……だから、何で笑うんですかっ」
「いや、意外に我儘なんだと思って」
ククッと漏れる笑い声に、慣れてきた自分が嫌だ。
「もういいです、自分で解読します」
「あ、やっぱり学年1の秀才でも読めないんだ」
一言余計なんですけど!
睨むと、相変わらず可笑しそうに笑う朝霧先生。
何だかこの人を相手にすると、調子が狂う。