世界を敵にまわしても
「夏休みちょっと楽しみになってきたかも」
追い付いてそう言うと、椿は横目であたしを見ながら「フーン」と素っ気無い返事。でもやっぱり、笑顔。
「ま、アイツは忙しいだろうけど、つまんなくは無いんじゃん?」
先生の事を言ってるんだとすぐに分かって、あたしは「そうだね」と返した。
「アチー」
昇降口を出ると、夏らしい真っ青な空が拡がっている。
夏休み中、1度でもこの空の下を先生と歩けるかな。なんて、考えても難しいだろうな。
「……」
もしかしたら。もしかしたらと思って見上げた先に、先生はいなかった。
音楽室のベランダから、ここを見下ろしてるんじゃないかと……。
やっぱり、気にしすぎじゃないと思うんだ。
今までずっと、“いる”と思って校舎を見上げてたはずなのに。
“もしかしたらいるかも”に変わって、いてほしいと願ってる。
そんなしょうもない事と言われても、些細な変化が気になって、苦しくなるんだ。
……変な気分。喧嘩してるわけじゃないのに、苦しいなんて可笑しい。
得体の知れないものに、心の奥底からジワジワと浸食されてる気分。
「はーっ! ……家帰ったら勉強しよ」
「はん!? 今から水着見に行くんだよ」
「え、今日行くの?」
――高校2年生。
今までと180度違う予感の夏休みと文化祭は、すぐそこ。
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