世界を敵にまわしても


「人混み苦手なんだよね」

「気になんないって!」


……困った。

予定がないと言った建前、ものすごく断りづらい。晴だから、余計に。


「あたし、浴衣とか着ないよ」

「えぇ? 別に浴衣じゃなくても……あーでも似合いそうなのにもったいねーっ」

「それ寸胴って言ってる?」

「ええ!? ちょ、そんなこと言ってないって!」


アタフタする晴に「冗談」と微笑んで、机の上にある委員活動なんかを記した、文化祭関連の予定表に視線を移した。


「マジで来ない?」

「海には行くよ?」

「……祭りは嫌?」


少し真剣な声に顔を上げると、やっぱり晴は真面目な顔をしていた。というより、しょげて耳を垂らす犬に見える。


……嫌じゃないけど、とは言わない方がいいんだろうな。


「ゴメン。海はいいけど、祭りは無理」


ハッキリ言いすぎたと思ったのは、「そっかぁ」と明らかにガッカリされたから。


「椿は行くんじゃない? 好きそう」

「あー、去年も一緒には行ったけど……食ってばっかだったな」

「そうなの?」

「そりゃもう。花火より食い気!って感じでさー」


去年の話をしてくれる晴は、もうあたしを祭りに誘うことはなかった。


本当は晴の誘いなら、行っても良かったんだけど。


どうせ行くなら、先生と行きたいと思ってしまったんだ。


少しの時間でもいいから、先生と夏を過ごしたい。

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