世界を敵にまわしても


打ち合わせを終えて晴と一緒にクラスを出る。午前中ウチのクラスが作業していた教室は、1階の科学室だ。


模擬店の飾り付けやメニューを作る人は中で作業して、ペンキや木材を使って看板を作る人は科学室の外で作業している。


別々の教室で作業するより近くに居るほうが、みんなも委員のあたしと晴も作業しやすいからだ。


進行状況はどうだろうとか、晴と他愛ない話をしながら科学室へ戻ると、見慣れた後ろ姿があった。


外で作業するクラスメイトを同じ場所で眺める先生は、背中を窓に寄りかからせている。


「あ、奏ちゃん来てるじゃんっ! エライ!」


窓の外にいる先生に晴が駆け寄ると、先生は苦笑しながら振り向く。


「エライって、来るでしょ普通」

「だーって午前中顔出さなかったしさー」

「午後には行くからって事前に言ってただろ」

「そうだっけ?」


窓枠に手をつく晴の少し後ろへ立つと、先生はあたしに微笑んで「お疲れ様」と声を掛けてくる。


「……先生も」


2週間ぶりに会えたから、何とも言えない気持ちが湧きあがって、うまく言葉が出なかった。


「ほら、作業するんだろ? 俺も少しなら手伝えるよ」

「椿お前、ちゃんとやれよーっ?」

「人をサボり魔みたいに言うな」


晴の言葉に少し身を乗り出すと、先生の足元に椿が座っていた。


……気付かなかった。いつ戻ってきたんだろう。


眠たげな顔をして気だるそうに立った椿は、教室の中にいるあたしを一瞬見上げて晴に視線を移した。


「色ペンってどこにあんだよ」

「ペンで書く気してんの!? 一応それ立て看板なんですけど!」

「立てられりゃ何でもいいべや」


平然と言う椿に、晴は本日何度目かの溜め息を吐く。


「奏ちゃんはその辺監視しといてっ。行くぞワガママ椿ー」


晴がドアに向かって歩き出すと、椿は豪快に窓枠へ足をかけて教室に入ってきた。


あたしの横を通り過ぎる前に椿は微笑みを向けてきて、胸が熱くなる。


また、気を使われたっぽいな……。
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