世界を敵にまわしても


「行こうか」


ポツリと小声で呟いた先生の言葉に耳を疑う。


目を見開いたあたしは先生を見ないまま、固まってしまった。


「よし、コレで決定ね」


そう普通の声で言った先生は、持っていた資料を笑顔であたしに差し出してくる。


クラスで準備期間にやる事をまとめた日程表。


「……決定?」


受け取りながら訊くと先生は「うん」と微笑んで、ギュッと胸が締め付けられた。


「詳細は追々で。遅れないようにね」


他の人が聞いたら大まかな日程表のことを言ってるみたいなのに、あたしだけには全く別の話に聞こえる。


日程表のことではなく、夏祭りに行くことが決まったから。


「それにしても、ハルくんの焼き鳥屋さんってどうなの?」


……戻った。普通の、何てことない会話に。


先生は足元にある看板を見つめて、あたしは日程表を折り畳みながら口を開く。


「さぁ。売上を伸ばす作戦らしいけど」

「宮本の知名度か。他校にも知り合いがいそうだもんね」



……好き。


やっぱり、どうしようもないほど先生のことが好きだ。


きっと、あたしが夏祭りに行きたいんだって分かって。


忙しいのに、なるべく外で会わないようにしなきゃいけないのに。先生から言ってくれた。


それだけでもう、バカみたいに嬉しくなる。
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