世界を敵にまわしても


「どうしたの?」


両手で口を覆うあたしを不思議に思ったのか、先生は顔を覗くように首を曲げた。その表情から、分かってるくせにと言いたくなる。


少し意地悪さを含んだ笑みを浮かべた先生から、あたしは目を逸らした。


――決めた。


夏祭りの日に、先生にもう一度問おう。その日にちゃんと、先生と向き合うの。


それまでは、まだこうしててもいいよね……?


一緒にいたい。どれだけ壁を、距離を感じて不安でも。向き合う日は必ず来るから、そう決めたから。


その瞬間まで、もう少しこのままで。



「それにしても、黒沢と宮本遅いね」

「そろそろ戻ってくるよ」


辺りを見渡しながら言うと、ふと見覚えのある女子が視界に入った。夏休み前、音楽室に来た2人組がこちらを見ている。


その周りに居た女子数人と何か話して、すぐに持ち場へ戻ったけれど。


「……?」


あたしは特に気にせずに、椿と晴が戻るまで先生と話し続けた。逢えなかった分を埋めるように、もう少しこのままでと願いながら。



――そう願ったのが、間違いだった。


一時の嬉しさに幸せを感じて、それに少しでも長く浸ろうとしたのが間違いだった。


……ううん。きっと、もっとずっと前から間違ってたのかもしれない。どこからか、何がかなんて分からない。


けれど、あたしと先生の恋はいつになっても不完全で未完成だと。



たった1日と半日で、思い知らされたんだ。
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