世界を敵にまわしても
携帯を握りしめて職員玄関を見つめていると、校庭から花火のカウントダウンが聞こえた。
『5-! 4-! 3-!』
「……っ!」
2、というところで携帯が震えて、ビクッと肩を跳ねさせた。
背面デイスプレイを見たと同時に、花火の打ち上がる音と生徒の歓声が耳に届く。
メールは椿からだった。
職員室にも音楽室にも先生はいないらしい。あたしもまだ見てないから、あとは晴だけだ……。
「美月っ! ダメ、いねーっ」
昇降口の小さい階段を上って、下駄箱前で靴を脱ぐ晴が息を切らしてあたしの元へやってきた。
「椿も、いないって……あたしもまだ見てない」
「っはー……マジで? どこ行ったんだか」
2人で職員玄関を見ると、横にある階段からスラリと長い脚が見える。椿だ。
その表情から、物凄く不機嫌なのが分かった。
10メートルもない道を歩いてあたしと晴の前で止まった椿は、一度校庭で打ち上げられる花火を見てから、あたしを見る。
「いねぇよ、アイツ」
「……うん、職員玄関でも見てないよ。晴も見当たらないって」
椿はより一層眉間にシワを刻んで、行き場のない苛立ちを盛大な溜め息に込めた。