世界を敵にまわしても


「今日で最後だったんだよ、朝霧のやつ」



腕を組んでそう言った椿に、あたしは目を見開く。きっと、晴も。


「いねぇんだよ、もうこの学校のどこにも」

「ちょ……嘘だろ!?」

「さっき、ここ来る前に通りすがった教師に聞いた。実は今日で終わりだったんですよって。実はじゃねぇよマジで」


……今日で、最後?


もう、辞めた?


「明日以降、生徒には伝えられるってよ。新しい臨時講師も見つかったとかで、朝霧はもうこの学校には来ねぇんだと」


ハァーッと椿の大きな溜め息に、あたしの目には涙が堪る。


「……嘘だ」


嘘、そんなの嘘。

だって、見てたはずなのに。

あたしが歌うのを、聴いてたはずだ。


「そんなの嘘っ!!」

「……美月」

「……っ! 車は!? そうだよ、駐車場……!」

「美月っ!」


椿の声に耳を貸さずに、あたしは下駄箱に向かう。


自分のクラスの下駄箱に行ってからすぐ、ローファーに履き替える暇なんてなかったと思って、通り過ぎる。


「美月っ」


だけどあたしの足は止まって、その隙に椿に肩を掴まれた。すぐに振り返って、椿ではなく自分の下駄箱を見る。


「……何、美月?」



あたしの下駄箱がわずかに、開いていた。
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