世界を敵にまわしても
「ソウはピアニストになれなくて、あたしはピアニストになりたかった。進む道が違えてしまったから、別れただけなのよ。一時の間だけ。意味分かる?」
分かりたくない。
でも、逃げちゃダメだ。
目を逸らしたら、ダメ。
あたしは俯きがちだった顔を無理矢理上げて零さんと向き合う。
「一時別れただけなら、零さんはどうしたいの? これから、先生とどうなりたいの?」
「……どうって? 一緒にいるだけでしょ?」
「っ零さんはピアニストじゃない! 先生は……っ」
先生はどうするの?
零さんは、もうピアノが弾けない先生に何を望んでるの?
ただ一緒にいるだけなんて、それじゃ先生は――…。
「あぁ、ソウがこれから先どうするのかってこと? さぁ……専業主夫とか似合うんじゃない?」
「……は?」
零さんはニッコリと微笑んで、「専業主夫」と信じられない言葉をもう一度口にする。
何を言ってるんだろう……意味が分からない。
「本気で言ってるの……?」
知らないの? 先生が、零さんの演奏を聴いただけで具合が悪くなったこと。
真っ青になって、吐きそうになって……あたしは、先生がピアニストに戻るって夢を捨て切れてないって思ってるのに。
零さんにはそれが分からないの?それとも分かってて、言ってるの?