世界を敵にまわしても


「あのね、美月ちゃん。あたしが努力型なら、ソウはただの天才。音楽の神様に愛された神童だったのよ。昔から、ずっとね。小さい頃から周りにそう言われてきたの」

「……」

「もてはやされて、甘やかされて、15歳で外国デビューして。ピアノにも、周りの人にも愛され続けたソウだけど……きっとそういう環境のせいね。打たれ弱いの」


あたしはただ零さんの言葉に耳を傾けた。


別に聞きたい内容ではなかったけど、零さんが話終わるまであたしは言いたいことが言えないと思ったから。


「ソウの才能を妬む人だっていたし、辛口な評論家だっていたし。スランプなんて誰にでもあるのに、その度落ち込んだりして。……でも、それを隠すのがうまかったけどね」


零さんは最後の一口を飲んでグラスを空にした。


すかさずスタッフがワインを持ってやってきて、再びグラスは赤く染まる。


お酒を好む人なのかなとぼんやり思いながら、零さんが口を開くのを待った。


「小さい頃から大人に囲まれてたせいか、受け答えが上手かったし、どうすれば好かれるか嫌われるか分かってるんだと思うわよ。だから嘘もポーカーフェイスも得意なのね」


……そうかな。

嘘は得意かもしれないけど、ポーカーフェイスは割と下手だと思う。


顔にはあまり出ないけど、先生の感情はいつも瞳に映しだされるのを、あたしは知ってる。
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