世界を敵にまわしても


「別れてから3年……もう、傷も癒えた。お互いの存在が相手を傷付けることもなくなった。笑って、話せるようになったの」


あたしと零さんの視線が絡まって、彼女はゆっくり口の端を上げる。


背筋を走り抜けた戦慄。


あれは、零さんに対する怯えの象徴だった。今も、同じ。


「今、ソウとあたしが逢ってるのが証拠でしょ?」


――奪われる。


ただ直観的に、そんな気がしたんだ。


その考えが頭に浮かぶと、体中の血の気が引いていく。


「美月ちゃんがソウを好きなのことも、これからどんな風に生きてほしいのかも分かって良かったわ。まぁ、逢えないだろうけど」

「――っ!」


先生の居場所を聞こうと顔を上げて、固まる。いつのまに立ったのか、零さんはあたしにグッと顔を近づけていた。


黒い2つの瞳に、あたしが映ってる。


「それと」


零さんはあたしの鼻頭に人差し指をつけて、艶のある声で囁いた。


「ソウはもう、先生じゃないでしょ?」


サラリと黒髪が揺れて、零さんがあたしから離れるのが分かる。


けれど、あたしを見下ろして微笑む零さんに何も言えず、カツンとヒールの音を出して去って行く背中を追うことも出来なかった。



ただ呆然として、零さんの言葉がぐるぐると頭の中でまわっていた。
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