世界を敵にまわしても


「あながち嘘じゃないと思う」


耳に入った言葉は、あたしが求めたものとは真逆だった。


ピタリと止まったあたしに数歩遅れて、晴も立ち止まる。振り向いた晴の表情に、あたしは眉を下げるしかなかった。


「……聞いたんだ、親に」


初めて、晴の確実な情報網を恨んだ。


散々頼っておいて申し訳ないけど、晴が苦しげな表情をして話す内容なら、聞きたくない。


「……聞きたくない」

「美月……」

「だって、嫌な話でしょ?」


あたしにとって、それこそ絶望的な話だって分かる。


聞きたくない。だけど聞かなきゃいけない。でもまだ勇気が持てない。


「美月」


後ずさったあたしの手首を、晴が捕まえる。


聞く前から涙を浮かべるあたしに、晴は眉間にシワを刻んで「ゴメン」と謝った。


……何で晴が謝るの。


男の人のゴメンは、何だか色んな意味を含んでるようで好きじゃない。


晴はグッとあたしの手首に力を込めて、意を決したように真っ直ぐとした視線を向けてきた。


「奏ちゃん、今氷堂さんの家で暮らしてんだ」

「……」


涙は、こぼさなかった。嗚咽すら出さないように、奥歯を噛み締める。


大丈夫。


なんとなく、そんな感じの話かなって思った。
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