世界を敵にまわしても
嘘吐きのメビウス
放課後。あたしと椿は普段自分たちが降りる駅を通り過ぎて、学校とは反対方向の街中へ向かった。
先生の家の近くではなかったことにホッとしたけど、椿が降りると言った駅は一度降りたことがある場所だった。
クラシックコンサートが行われた、文化センターの最寄駅。この近くに、零さんは住んでるらしい。
「……はーん。高級住宅ーって感じで、胸クソワリィ」
少し迷いながら、駅から15分。
椿が立ち止まり見上げた先には立派なデザイナーズマンションが建っていた。
「なんか零ってやつの想像つくわ。ウチと合わなそう」
「……うん、絶対合わないと思う」
見上げるのも疲れるほど、立派なマンションだ。一体何階まであるんだろう。
「零って奴、何階に住んでると思う?」
「割と上の方」
「最上階」
「嘘だ!」
「……の、4つ下だとよ。36階」
それでも十分上に住んでるな……。
歩き出した椿の腕を掴んで足を進めると、椿はあたしに振り向いて口の端を上げる。
「何、ビビッてんの?」
「ビビッてません」
どうだか。なんて笑う椿だけど、本当は少し怖かった。
このマンションに、先生は本当にいるの?