世界を敵にまわしても
長い長いエレベーターは思いのほか早く36階で止まり、あたしと椿はそこへ足を踏み入れる。
エレベーターの中もそうだったけど、ブラウンとゴールドの装飾が何とも高級感を出してるっていうか……。
「ワンフロアに2つしか家がないってどうなの」
「……でも最上階は1つでしょ?」
エレベーターを出たら普通に外かと思ったのに、どうやら35階より上は違うらしい。
もう、マンションというよりホテルだ。
右と左に2つのドアがある。その右側が、どうやら零さんの家らしい。
「って、え!?」
あたしが辺りを見渡してる内に、椿は零さん宅のインターホンを鳴らす。
「ちゃっちゃと話つけろよ」
そう言って椿はあたしをドアの前に押しやると、自分だけ一歩下がった。
いや、椿は付き添いみたいなものだし、話さなきゃいけないのはあたしだけど。心の準備ってものが……!
音もなく開けられたドアの先に立っていたのは、零さんだった。
「……」
「……今晩は。昨日ぶりね」
薄手のVネックの白いニットを着ていた零さんは、ズれた肩の部分を直しながらあたしに微笑む。