世界を敵にまわしても
「昨日の今日でよく来れたわね」
ドアを全開にして、零さんはあたしの後ろに立つ椿に視線を向けた。
「お友達よね? ……口が悪いわりに綺麗な顔してるのね」
「ウッセーな。用があんのは朝霧なんだよ」
「……そんなに急かさなくたって、すぐ来ると思うけど?」
零さんは廊下へ振り返って、あたしの視界には広々とした玄関と、その先に続く廊下や部屋のドアが見えた。
ひとつのドアが開いて、出てきた人影にあたしは目を見開く。
その瞬間、零さんがあたしの前に立って微笑みを向けて来た。
……先生、だった。
「……零? 誰か来……っ!」
あたしは零さんを思い切り睨み上げて、きっと椿の姿を1番に見つけた先生の声を聞いた。
言ってなかったんだ。先生に、あたしと椿が来たってこと。
……先生からあたしの姿は確認出来なくても、脚くらいは確認出来るだろう。
零さんの笑顔はもう、悪魔にしか見えない。それか、性悪な魔女。
あたしが左へずれようとすると、零さんもドアに背中をつけた。
分け隔てるものがなくなり、あたしは今度こそ先生の瞳に映る。
きっとお風呂に入ってたんだろう。
廊下に立つ先生の髪は濡れていて、鈍く、金色に輝いていた。