世界を敵にまわしても


「何でなんて、“先生”に会いたかったからでしょ? ヒドイわね、ソウは。……でもね美月ちゃん。これが、本来の姿なの。あたしといた頃に戻っただけ。どういう意味か分かる?」


あたしよりも長い髪を耳に掛けながら妖艶に微笑む零さんに、返答するつもりはない。


確かに耳に入っていたけれど、聞こえないフリをした。


「先生……零さんが好きなの?」


手を伸ばせば、触れられる距離に居るのに。先生は黙ったまま、あたしを見下ろすだけだ。


「もう、あたしのこと好きじゃない……?」

「……」


無言がこんなにキツイと思わなかった。


謝られるのも嫌だけど、黙られるのはもっと嫌。


答えてよ。


あたしの質問に、どうして答えないの。


「ねぇ、先生っ!」


フッと逸らされた視線に、あたしの目には潸然と涙が浮かぶ。


……ダメだ。


あたし、何を言いたかったんだっけ。


何を、聞きたかったんだっけ。


先生に何を伝えて、どんな返事がほしかった?


頭の中も心の中もぐちゃぐちゃになって、あたしは一歩、後ろに下がった。


何のために、ここに来たの……!
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