世界を敵にまわしても


「ねぇ……美月ちゃん、あの楽譜はまだ持ってる?」


あたしを見ない先生から、ゆっくり零さんへと視線を移す。


今、なんて言った?

「……何で」

「何で知ってるのかって?」


そうだよ。あれは、あの楽譜は、去年の10月末に先生が学校で書いたもので……。


あれ?


そんな話、したっけ……?



「だってアレは、あたしの――…」

「零!!」


言い掛けた零さんの言葉を、先生が遮った。大きな声で、言うなとばかりに。


あたしの……何?
あたしの曲だって言いたいの?


「……あの楽譜の曲が、何?」


新しい恋が始まる曲だって……先生言ってたじゃん。


先生が、零さんに向けて書いた曲とか言わないよね?


だってあたし、あれを文化祭で歌ったんだよ?


もう一度……恋をする曲だって思いながら、先生に向けて歌ったんだよ?


「答えてよ。あれは、零さんの為に書いた曲なの?」


もしそうだったら、あたしは本当にただのバカだ。


先生は再びあたしを見るけど、眉間に寄せたシワは消さない。


まるであたしをなるべく瞳に映さないように、目を細めてるようにも思えた。
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