世界を敵にまわしても


「……違う。自分のために書いたんだ」


先生はそう言ってくれたけど、あたしは良かったなんて思えなかった。


零さんが言い掛けた“あたしの”って言葉が頭から離れなくて。


新しい恋が始まる曲だって、自分のために書いたと言った先生の言葉で。答えはひとつしか出なかったから。


結局あの楽譜は、零さんとの別れを乗り越える為に、新しい恋が始まるように、願って書いた曲だってことでしょ?


そんなの……零さんがいたから、零さんとの思い出があったから作れたようなものじゃん。


……それを晴たちと猛練習して、あたしの想いが、願いが届けばいいとか。笑える。


「……届かなかったんだね。あたしの歌も、想いも、願いも」


先生に向けて言ったのか、独り言のように呟いたのか。自分でもよく分かってない。


諦めちゃダメとか、まだ頑張れるとか。


そういう気持ちはまだ残ってるはずなのに、今はどうしようもなく虚しかった。


文化祭の日。あたしの下駄箱に入ってた紙切れに書いてあった“ありがとう”は、“さよなら”っていう意味だったんだと分かってた。


本当の、本当に、終わりだって。


先生はそういう意味でありがとうを使ったんだもんね。


何で来たのなんて、言われて当たり前だ。
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