世界を敵にまわしても
「今は……零といたいんだ」
振り向いて、そうハッキリ言った先生に、あたしは前へ進もうとしていた力を緩めた。
そのまま床にへたり込みそうになったところで、勢い良く横を通過した金色の光にハッとする。
「っ椿!」
――バスッ!と硬くも柔くもない微妙な音の理由は、椿が持っていた鞄を振りあげて、先生の顔面目掛けて振り落としたから。
それを先生が腕で受け止めたのに気付いたのか、椿は自分の足で先生の足まで勢い良く払った。
そのせいでバランスを崩した先生は床に倒れて、椿は先生を見下ろしてきっと睨んでる。
「ちょっと……! 何してるのよ!」
零さんが慌てて先生に駆け寄ったけれど、あたしは一瞬の出来事に呆然としていた。
床に倒れた先生も、そばに駆け寄った零さんも、椿を見上げている。
「ゲスが」
「アンタ……! ソウが怪我したらどうすんのよ!」
「知るかよ」
椿はそれだけ言ってあたしに振り返り、近付いてくる。
カラフルな爪先が伸びてきて、頬に触れられて。その時初めて、自分が涙を流していたことに気付いた。