世界を敵にまわしても
「平気だよ……」
全然そんなことはなかったけど、椿まで悲しそうな顔をするから言わずにはいられなくて。
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられて、あたしは目を瞑ってそれを受け入れた。
「帰んべ」
肩を抱かれて、あたしは椿と一緒に歩き出す。
けれど椿は「あ」と呟いて、すぐに顔だけ振り返った。
あたしもそれに続いてわずかに振り向くと、先生と零さんはまた床に座ったままでいる。
「いいこと教えてやろうか。アンタがそうやって地に這い蹲ってる間に、美月の1番はアンタじゃなくなる」
「……椿?」
「いつまでも美月に想ってもらえてるとか、本気で考えてたらブッ飛ばしたいとこだけど。まぁいいんじゃねーの? その美月もどきとお幸せに、センセー」
椿はあたしの肩を抱いたまま歩いて、今度は体ごと先生と零さんに向ける。
すると椿はドアを押し、ゆっくり閉まっていく間に再び口を開いた。
「美月のことは、晴が幸せにしてくれるから安心しろよ」
「……」
――カチャン…と静かに閉まったドアに、あたしは先生の面影を見ていた。