世界を敵にまわしても
椿が言った言葉に、先生は何の言葉もなかったけど。表情に変化はあった気がする。
本当に、気がするだけ。
ゆっくりとドアが閉まり始めて、「美月のことは、晴が幸せにしてくれるから安心しろよ」って椿が言ったあと。
先生の瞳が、揺れた気がした。
困惑とか、戸惑いとか、そんな感じの表情をしていた気がする。
それからすぐに、あたしと先生はドアが閉まるまで目が合っていた。
……あれは、何だったんだろう。見間違えとは思えない。だけど勝手のいい解釈をしただけかもしれない。
先生は、晴にヤキモチを妬いたことがあったから。
もしかしたら、もしかしたらって。
先生はまだ、あたしのことを好きでいてくれてるのかもって。
「……フッ」
自嘲気味な笑みが零れる。
自分ばかり好きだなって思ったから。
あたしは先生が好きでしょうがなくても、先生はどうなのかいまいち分からない。
もう終わったのに。終わらせたくなくて。
足掻いて、跳ねのけられて、また足掻いて、また跳ねのけられて。
一体何回こんなこと繰り返したんだろう。
あたしが先生に好きだと言うたび、先生は頑なに拒否するようになったのは、気のせいじゃないと思うんだ。
好きだと伝えた分だけ、先生が離れていく。
――疲れた。
何だか、ものすごく。