世界を敵にまわしても
「うわー! マジだ!」
「センセーッ!」
「何なに、どうしたの!?」
大勢のクラスメイトが上履きのまま先生のもとへ走って行き、先生を囲んでいた数人の3年生達はたじろぐ。
……それもそうだ。先生は5ヵ月、ウチのクラスの担任代理をしてたんだから。
「えー…何で朝霧先生?」
「何か荷物取りに来たらしーよ」
「本当に辞めちゃったんだよねー。ヤダー」
周りに集まっていた生徒達の会話が耳に入る。
あたしは騒ぐクラスメイトと笑う先生の姿を、ただぼんやりと見るしかなかった。
……髪、黒くしてるけど。染めたのかな。カラースプレーとか?眼鏡もしてるし……。
「わっ!」
突然手首を引っ張られて顔を上げると、椿があたしを引いて生徒の波を避けていく。
「え、え? 椿?」
「あんだけクラスメイトいんだから、別に大丈夫だろ」
数メートル歩いただけで、あたしと椿は先生の近くに辿り着いた。
クラスメイトに囲まれていた先生はあたしと椿に気付いて、わずかに目を見開く。
「久しぶりじゃん」
椿がそう話しかけると、先生はゆっくりと顔に笑みをひろげた。