世界を敵にまわしても
騙された。
まさかデートじゃなくて、両親に会わせるのが本当の目的だったなんて……。
「ここ!」
「……お洒落だね」
タクシーに乗せられて向かった先はもちろん晴が言っていたショットバーで、あたしはOPENと書かれた札の掛かるドアを見つめた。
下半分が黒くて、上半分はガラスになっているから、中の様子が窺える。
「あちゃー、始まってたかな」
「じゃあ帰る?」
「うぇえ!? いやっ、大丈夫! まだ始まったばっか!」
「はは、冗談だよ」
晴は何とも言えない表情をしてから、静かにドアを開ける。
その瞬間耳に届く優雅な音に、あたしは少し鳥肌が立った。
中は薄暗く、人々が見てる先には小さめだけれど、確かにステージがあった。
黒いグランドピアノとヴァイオリンを弾く人達が合わせて5人。
暖色のスポットライトに照らされて、優しげな音楽を奏でている。
観客席には丸いテーブルが7つほどあり、ひとつに椅子が3、4席。店の端にはカウンター席もある。
「こっち、来て」
晴に小声で促されて、横に立っていたスタッフに頭を下げた。