世界を敵にまわしても
「ちょっと待ってて! 母さんとこ行ってくる」
「うん、分かった」
晴はテーブルを離れると、演奏が終わったばかりのお母さんのところへ行く。
その様子を見ていると、晴が何か話してお母さんがこちらを見た。
ギクッとして、晴があたしを指差したことで確信する。
軽く下げた頭を上げると、案の定お母さんは微笑んであたしに手を振っていた。
……仲良しなんだなぁ。
ぼんやりステージの方を眺めていると、晴が何かジェスチャーをしている。
両手を合わせて、ステージ袖を指差して……あぁ、ちょっとゴメンってことね。
あたしが大丈夫と頷くと、晴は笑ってお母さんと一緒にステージの袖に消えた。
……お父さんは確かフルート奏者なんだよね。次、お父さんが出て来るとかじゃないのかな。
あたしは辺りを見渡しながら、アイスティーを口に含む。
「ハル坊の好きな子でしょ? きみ。あ、これサービス」
「え? あ、ありがとうございますっ」
突然現れてテーブルにケーキを置くスタッフさんは、先程注文を取りにきた人だった。
というか今、何か聞こえたんだけど……。