世界を敵にまわしても
「えと……あたしのこと?」
「知ってる知ってる。ハル坊の両親が騒いでたよ。今日晴が女の子連れて来るー!って」
い、一体どこまで知ってるんだろう……ものすごく複雑な気分……。
「まぁハル坊じゃなー……無理ってか、無理?」
バレてる。フッてしまったことまで。
「あの、晴は凄い魅力的だと思うんですけど……その……」
「あぁ、こっちの話! 大丈夫、大丈夫。ハル坊まだ17だろ? これからだって」
ぎこちない笑顔を見せると、「楽しんで」とスタッフさんは去っていった。
「……はぁ」
何だか物凄く申し訳なくなってきた……。
晴って大人にも愛されてるんだな。
どこにいても人気者の晴は、これから新しい恋が出来るだろうか。なんて、あたしが考えてもな……。
テーブルに頬杖をついて、ステージのグランドピアノを見つめる。
でも晴は優しいし、前向きだから。きっとまた恋が出来ると思う。
むしろ、そう願いたい。晴を好きな女の子いっぱいいるだろうし……。
「……」
あたしはステージを見たまま、思考が一瞬止まる。頬杖を外して目を細めるけど、あたしの視力は両目1.5だ。
「……何で」
ポツリと呟いくと、袖から出てきた人影は観客に向かってお辞儀をする。
顔を上げて微笑むのは、間違いなく先生だった。